< 研究・教育活動の内容>
1.研究教育課題の柱
本寄付講座における研究・教育課題では、都市工学専攻との関連を意識しつつ、次のような課題を柱として掲げている。そしてそれを踏まえつつも、火災や地震災害の発生など、その時々のニーズに応じて臨機応変に対応することを基本スタンスとしている。
(1) 都市の防火・防災計画(大規模震災軽減対策など)
(2) 消防防災活動支援情報システムや危機管理システムなどの防災システム構築
(3) 社会の少子・高齢化に対応した防火防災対策
(4) 超高層・大規模ビル、地下等の複雑化した都市空間における防火、避難
(5) 地震、火災や燃焼にかかわる事故や災害の調査分析
(6) 防火・防災分野におけるリスク分析、リスクコミュニケーション
2.災害調査や共同研究調査の実施
本寄付講座においては、次のような数多くの災害調査や共同研究調査を行っている。
○ スペイン・マドリード市の超高層ビル火災調査(2005.03)
○ 2007年能登半島地震調査(2007.04)
○ 2007年新潟県中越沖地震調査(2007.10)
○ 自治体の災害情報収集体制に関する調査
(共同先:NHK大阪、2006.11)
○ 火災事故につながるヒヤリ・ハット経験に関するウェブアンケート調査
(共同先:消防研究センター、東京ガス、ホーチキ、2007.05)
○ 京都、奈良における重要文化財建造物周辺の市街地特性と防災対策に関する調査
(文化庁委託調査、共同先:工学院大学、立命館大学、2008.11,12)
○ 住宅用火災警報器の設置状況および作動状況に関するアンケート調査
(共同先:東京ガス、ホーチキ、消防研究センター、東京理科大学、2009.05-07)
3.共同実験の実施
本寄付講座は以下のように共同による実験も行っている。
○ 住民による可搬ポンプの消火活動力に関する実験(3回)
(共同先:京大、東京理科大、神戸大、東京消防庁、2006.12-2008.11)
○ 停止したエスカレータを利用した歩行に関する実験
(共同先:東京理科大、早稲田大学、東急総研、2007.10)
○ 高層事務所ビルを階段避難歩行に関する実験
(共同先:工学院大学、2009.11)
< 主な研究・教育活動の実績>
1.多角的な共同研究の実施による研究
○ 住宅火災における死者発生リスクの分析と住警器等の効果的な住宅防火対策
○ リアルタイム延焼予測や最適消防力運用システムの構築
○ 超高層ビル等における火災等緊急時のエレベータ利用に関する研究
○ 高層ビルや地下駅等の空間における避難安全に関する研究
2.公開セミナー、講義など教育・啓発活動
○ 東京大学の大学院、学部、教養部における学生への講義
○ 寄付講座主催の無料公開セミナーの実施と講演
○ 客員研究員(3名)や研究生、卒論生の受け入れと指導
○ 研究室のゼミや定期的研究会の実施
○ その他、自治体や防災関係団体などの主催する防災講演会での講師(多数)
3.外部の競争的研究資金の獲得とこれに基づく研究の実施
(1) 危機管理対応情報共有技術による減災対策(H16〜H18)
「地域消防力の最適運用に関する研究」
地震時等の同時多発火災に対して、消防機関および地域住民防災組織の防災資源をどのように運用して連携を図れば最適の効果が得られるかを検討するために、そのツールとしてのシステム開発と検証スタディを行った。
(2) 大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特:消防研究センターとの共同研究) (H18)
「地方自治体の災害対策本部における応急対応支援システムの開発」
地方自治体の災害対策本部が、震災発生直後から一週間程度の期間において実施する応急対応活動に関して、その意思決定を支援するための情報システムを試作した。
(3) 文部科学省科学研究費補助金(基盤研究)(研究分担)(H21年〜H23)
「地震直後の高層建築物における火災発生危険を考慮した避難誘導方策に関する研究」
地震後の高層建築物内で発生する火災等の災害発生シナリオをふまえた被害事象推移予測を行い、状況が遷移する中での在館者の避難行動予測を行うシステムを開発し、地震直後の高層ビルにおける火災発生を考慮した事前の危険回避の避難誘導対策を確立することを目的とする。
(4) 日本火災学会内田博士記念基金研究助成金(研究代表)(H21)
「伝統的建築物等の文化財を対象とした市街地火災による延焼リスクの分析とその対策に関する検討」
伝統的建築物等の文化財を対象とした現行の補助事業メニューの改善を視野に入れ、文化財に関する延焼防止対策としての各種消火設備の設置及び防災計画の妥当性を検証する。具体的には、建築物および市街地の延焼リスクパターンを過去の事例より整理し、文化財の類型化と統合することにより文化財のリスクパターンを把握する。
(5) 鹿島学術振興財団研究助成(研究代表)(H21)
「住民の選択行動を考慮した防火改修と耐震補強の支援制度に関する研究」
防災対策を講ずる個人に注目し、防災性向上という目標に向かって人がどのように行動し、その結果都市や社会の脆弱性がどのように解決されていくかを定量的に把握し、現実社会に応用するための基礎を構築する。これにより、住宅改修の動機について年収や年齢などの個人属性のみならず、隣人など他人からの影響も考慮した点が特徴的である。
4.学位取得、表彰など
(1) 廣井悠:博士(工学,
東京大学),都市空間における防災対策の行動モデリングと制度設計 への応用,2010.1.
(2) 樋本圭佑:建築学会奨励賞,都市火災の物理的延焼性状予測モデルの開発 ,2008.4
(3) 廣井悠:自然災害学会学術優秀発表賞,耐震補強工事の助成額検討手法とその応用,2008.10.
(4) 廣井悠:地域安全学会論文奨励賞,対策間の相互作用を考慮した防災対策行動予測モデル の提案,2008.11
(5) Ai Sekizawa:Hats Off
Award,Society of Fire Protection Engineers,2007.1