個人または団体の寄附による基金によってその基礎的経費を賄うものとして置かれる講座です.寄附講座の設置目的は,@研究教育の進展と充実,A学術に関する社会的要請等に対する対応,B研究教育体制の流動化,国際化,流動化等の推進を目指すものとされます(東京大学寄附講座要項より).
1.第1期:基礎作りと定着 (平成15年2月から平成20年1月の5年間)
消防防災科学技術寄付講座は、平成15年2月、東京大学大学院工学系研究科・化学システム工学専攻に設立され、当初3年間の予定で運営が開設された。その後、初期の目的に添って着実に成果を挙げ、その活動実績が認められたことで、平成18年2月には2年間の延長が決まり、所属を都市工学専攻へ移して講座を継続している。この間に本寄付講座は、東大内部をはじめ、防災関係機関、さらには幅広い大学や民間機関との共同研究や、公開セミナーなどの教育研究活動を通じて、関係学協会や民間企業等にもその存在が周知されるに至った。
この第1期(平成15年2月から平成20年1月の5年間)は、本寄付講座の創成期としてその基礎づくりと定着の段階であったとも言える。そして、当初の目的にふさわしい多数の成果をあげただけでなく、その運営に当たっては研究予算を所与の寄付講座予算に頼る以外に、文科省振興調整費等の競争的外部資金にもチャレンジをして、これらを獲得し震災時の最適消防力運用支援システムなどの応急対応支援システムの開発を行うなど、高い実績をあげている。
また、本寄付講座の助教として採用した樋本圭佑君(建築学会奨励賞:前助教)と廣井悠君(地域安全学会論文奨励賞、自然災害学会学術優秀発表賞受賞:現助教)の両名がともに建築学会や地域安全学会、自然災害学会で今年度の学会賞を受賞したことは、両名が学術功績の優秀さと将来への期待を評価されたとともに、本寄付講座が防災研究の若手育成のうえで重要な役割を果たしている存在意義を示すものとして価値がある。
さらに、たとえば2008年10月1日に発生した大阪個室ビデオ店火災の際の、NHKのニュースやクローズアップ現代での解説をはじめ多くのTVニュースにおける解説、読売新聞「論点」ほかの新聞雑誌での解説記事の掲載など、本寄付講座の社会的認知度が高まったことにより取材が増えたことも、本寄付講座の社会的存在意義の高まりを示している。
2.第2期目の新たなスタート (平成20年2月から平成25年1月の5年間)
消防防災科学技術寄付講座は、平成20年1月に第1期目を終了したが、これまでの実績や存在意義の重要性に鑑み、また、首都直下地震等の巨大地震への備えや、少子高齢化社会での安全安心、持続的環境形成と防災対策の調和など、いくつもの新たな課題への挑戦のために、あらためて寄付を受けている企業、団体から賛同と支援を得て、その更新を東京大学に行った。その結果、2期目5年間の更新が認められ、平成20年2月に再び都市工学専攻において設置、スタートし現在に至っている。この間、都市工学専攻など建設系3専攻で平成19年11月に新たに開始した「東大まちづくり大学院」においても、本寄付講座は都市の安全・安心の課題を担当するなどその役割が期待されているところである。このように、本寄付講座の更新継続の意義は、社会的にも、また、東大にとっても極めて大きいと考えられる。
3.都市工学専攻の研究・教育における本寄付講座の役割
本寄付講座の研究教育対象である消防防災という分野は、地震や風水害はもちろんのこと、火災・爆発など人的・社会的要因を含む都市災害の解明、および総合的な防災対策の構築を対象としている。一方、都市工学専攻では、都市の諸問題に対して、ソフト、ハードの両面にわたって多角的・総合的なアプローチで最先端の研究教育を行っている。
本寄付講座は、企業あるいは公的研究機関では限界があるような防災安全科学に対する総合的・学術的アプローチによる新技術創生を目指して設置されているものであり、都市工学専攻における人的・物的環境は、まさに消防防災の研究・教育にふさわしいものと言える。
上に述べた目的に沿って、都市工学専攻において実施する消防防災科学技術寄付講座における研究・教育課題としては、次の事項を主な基本柱としている。
(1) 都市の防火・防災計画(大規模震災軽減対策など)
(2) 消防防災活動支援情報システムや危機管理システムなどの防災システム構築
(3) 社会の少子・高齢化に対応した防火防災対策
(4) 超高層・大規模ビル、地下等の複雑化した都市空間における防火、避難
(5) 地震、火災や燃焼にかかわる事故や災害の調査分析
(6) 防火・防災分野におけるリスク分析、リスクコミュニケーション
4.本寄付講座の今後の展開における基本方針
上記の研究・教育活動を通じて、将来の消防防災を担う有能な人材を育成することに一層の力を入れるとともに、以下の基本的な方針の下で、今後とも総合的、かつ実践的な消防防災科学の発展のために努力していきたいと考えている。
○ 時代の要請に即応した研究分野の展開と共同研究の実施
○ 学生、研究員、研究生の受け入れ等、教育、人材育成の一層の充実
○ 論文発表のみならず、公開セミナー等、成果の積極的な社会への発信及び普及
○ 「東大まちづくり大学院」はじめ、学部、大学院での防災教育
本寄附講座では,
○ (財)消防科学総合センター (http://www.isad.or.jp/)
を窓口として,以下の企業・団体(50音順)からご支援を頂いています.
○ あいおい損害保険(株) (http://www.aioinissaydowa.co.jp/)
○ 危険物保安技術協会 (http://www.khk-syoubou.or.jp/)
○ (財)消防試験研究センター (http://www.shoubo-shiken.or.jp/)
○ 新コスモス電機(株) (http://www.new-cosmos.co.jp/)
○ 東京ガス(株) (http://www.tokyo-gas.co.jp/)
○ 東京電力(株) (http://www.tepco.co.jp/)
○ ニッタン(株) (http://www.nittan.com/main/)
○ 日本消防検定協会 (http://www.jfeii.or.jp/)
○ (財)日本消防設備安全センター (http://www.fesc.or.jp/)
○ (財)日本防炎協会 (http://www.jfra.or.jp/)
○ 能美防災(株) (http://www.nohmi.co.jp/)
○ フィガロ技研(株) (http://www.figaro.co.jp/)
○ ホーチキ(株) (http://www.hochiki.co.jp/)
○ (株)モリタ (http://www.morita119.com/)
○ 矢崎資源(株) (http://www.yazaki-group.com/)
○ ヤマトプロテック(株) (http://www.yamatoprotec.co.jp/)
○ (株)東芝 (http://www.toshiba.co.jp) (平成18年度から20年度の期間)
○ 櫻護謨(株) (http://www.sakura-rubber.co.jp/)
(平成21年度から)
1.寄付講座設置の背景と目的
平成7年に発生した阪神・淡路大震災以降、大規模災害時における国、自治体、および企業において防災・危機管理体制の確立が急務となってきた。また、ニューヨーク市の世界貿易センタービル崩壊や韓国テグ市での地下鉄火災など、従来の災害様相だけでは捉えきれない新たなリスクや危機管理対応が必要となっており、消防防災における火災安全科学技術のレベルアップが求められている。
従来、我が国の消防防災科学技術に関する研究・技術開発については、主に国立研究機関がその推進にあたってきた。しかし、消防防災という分野は、人的・社会的な種々の要因が関係する災害の解明や防火・防災対策の構築を対象としており、学際的かつ実際的な目的指向型の研究である。その意味で、種々の専門の学部・学科を擁する総合大学において、それらの人的・物的資源と環境を活かしながら時代の社会的ニーズに対応すべく設置することができる寄付講座はまさに消防防災にふさわしいものと言える。本寄付講座は、こうした期待を担って、企業あるいは公的研究機関では限界があるような防災安全科学に対する総合的・学術的アプローチによる新技術創生を目指して設置されたものである。
2.寄付講座の使命と研究教育活動について
本寄付講座では、効果的な消防防災対策の構築、総合的な防災安全工学の発展を図るため、大学、民間、公共団体を問わず幅広く人材を集め、多様な科学技術分野の知識を集約して、総合的、実践的な課題に対して共同研究を実施するとともに、教育並びに技術者の育成活動を行っているところである。
また、研究教育の推進にあたっては、国内外の研究機関、消防防災機関、企業との連携・協力を密にし、調査・研究活動を行っており、こうした活動により消防防災研究の人的・物的なネットワークをひろげる核となっている。さらに、この講座における研究教育活動を通じて、次世代を担う科学技術者への安全防災教育と消防防災を担う有能な人材を育成することも、本寄付講座の重要な使命である。
本寄付講座の研究教育活動のコンセプトを下図に示す。
図 本寄付講座の使命と研究教育活動のコンセプト
<寄附講座紹介記事はこちら>
日本火災学会誌「火災」295号,Vol.58,No.4,pp.63-66,2008.08
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